はじめに
2020年に発生した新型コロナウイルス感染症拡大により、テレワークや在宅ワークなどオフィス以外の場所で働くスタイルが認められる時代となりました。さらに感染症拡大が長期化したことにより、テレワークや在宅ワークを主な勤務スタイルとする企業が増加したため、「オフィスは必要であるのか」「オフィス以外の場所でも支障なく働けるのではないか」といったオフィス不要論が生まれました。
テレワークや在宅ワークなどオフィス以外の場所で働く概念自体は2000年以前から存在していましたが、これまでの日本では「仕事をする場所=オフィス」という認識が当たり前に広がっていました。この当たり前の認識を覆すようなオフィス不要論はどのようにして生まれたのでしょうか。また、感染症拡大が終息をむかえつつある現在、テレワークや在宅ワークの制度を廃止し従来のオフィス勤務へ戻す企業も出てきています。
この記事では、オフィス不要論が生まれた背景や、テレワークや在宅ワークの課題点、オフィスを持つ場合のメリット等をご紹介します。
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オフィス不要論が生まれた背景とは?
そもそもオフィス(office)とは、社員が事務作業を行うために企業が用意した部屋のことを意味します。一般的な賃貸オフィスの他、レンタルオフィスやシェアオフィスなどのフレキシブルオフィスも対象です。
オフィス不要論の根拠の一つとなっているのは、テレワークや在宅ワークのようなオフィス以外の場所での勤務の拡大です。近年、パソコンのソフトウェアやハードウェアの技術が進歩し、Web会議や大量の電子データの共有が簡単かつ迅速に実現できるようになりました。パソコンが1台あれば自宅やカフェなどのオフィス以外の場所にいても、不自由なく仕事をこなせる時代となりました。
テレワークや在宅ワークには通勤時間の負担軽減や、介護や育児など家庭の事情を考慮した柔軟な勤務ができるようになるといったメリットもあるため、多様な働き方を受け入れることで優秀な人材の確保にもつながると考えられています。
このようなテレワークや在宅ワークのメリットに注目すると、わざわざ企業が費用をかけてオフィスを整備する必要は無いという主張が出てくるのは当然に思えます。しかし、実際にテレワークや在宅ワークを導入した企業では、社員がオフィスで働かなくなったがゆえに見えてきた課題があります。
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テレワークや在宅ワークの課題とは?
厚生労働省がコロナ感染症拡大直後の2020年4月に公開した資料では、テレワーカー、リモートワーカーの課題として「自分の時間管理」や「公私の区別」、「コミュニケーション」、「職場の様子、情報の把握のしにくさ」があるとしています。
また、総務省が発表した令和3年度情報通信白書ではテレワークに関する調査結果がまとめられており、テレワークの課題として企業の制度整備の遅れの問題に加えてコミュニケーションの問題が挙げられています。どれほどデジタル技術が進んでもオフィス内での対面コミュニケーションと同じようにはいかないと感じている方は多いのではないでしょうか。実際にテレワークを導入した企業でもテレワーク実施者の割合やテレワークを行う頻度を限定してオフィスで行う業務を一定程度残していることがほとんどのようです。
他にも、パーソル総合研究所の調査によると、テレワーク勤務でのコミュニケーションに関する不安は若い世代ほど強くなる傾向があり、
- 非対面では相手の気持ちがわかりにくい
- 上司から公平・公正に評価してもらえるのか
- 上司や同僚から仕事をさぼっていると思われていないか
といった点に多くの方が不安を感じているようです。人間関係の構築途上にある若い世代では特に対面のコミュニケーションを求める気持ちが強いことは、私たちがビジネスにおいて人と人の関係性を重要視していることの表れと言えるでしょう。
オフィスを構えることによるメリット
オフィス不要論が広まりつつある時代ですが、企業がオフィスを構えることや、従業員がオフィス勤務をして仕事を行うことにはどのようなメリットがあるのでしょうか。
▶メリット1. オフィスワークの場所として利用できる
テレワークや在宅ワークでは仕事場所の確保が課題となることが多くあります。自宅では仕事に集中できない、シェアオフィスやコワーキングスペースなどの他者がいる空間では話し声や雑音が気になるといった悩みを持つ人々も少なくありません。
企業がオフィスを構えていれば、仕事場所に困ることは根本的にありません。仕事に必要なパソコンや書類を持ち運ぶ必要もないため、オフィスワークは情報漏洩管理に最も適した勤務スタイルです。シェアオフィスやコワーキングスペースではExcelデータやWordファイルを開く際にも他者の目に注意を払う必要があります。特に情報漏洩リスクの高いIT企業や個人情報を多く扱うような企業はオフィスワークが望ましいでしょう。
▶メリット2. 会議スペースとして利用できる
従業員が複数いる場合や来客が多い企業には、いつでも手軽に利用できる会議スペースが必要不可欠です。オフィスを構えている場合、会議ができるスペースさえあれば突発的な会議や来客にも困ることなく迅速な対応が可能です。また、オフィス内に会議スペースがあることで、会議場所への移動もスムーズで業務効率アップが期待できます。テレワークや在宅ワークであれば、会議に集中できる静かな空間を自身で探して用意する必要があるため、手間と時間が発生してしまいます。
また、会議にはプロジェクターやモニター、インターネットケーブルなどの備品が必要となる場合も少なくありません。会議室の有料提供サービスなどを利用する場合、これらの設備をレンタルする際には会議室利用料とは別に、オプション利用料が必要となる場合があります。また、自社独自のプロジェクターなどを利用したい場合には、会議室への搬入の手間も生じます。自社の会議室であれば、オプション利用料などの別途コストが発生することはありません。よく使う設備は会議室内に常備しておけるため、プロジェクターなどを用意したり搬入したりといった運搬に関する手間も発生しません。
▶メリット3. 従業員同士のコミュニケーションを取りやすい
従業員同士が顔を合わせる場としてオフィスが存在することで、対面だからこそ生まれるコミュニケーションが期待できます。テレワークや在宅ワークだと、ついつい相手の都合を考慮してメールや電話を控えてしまうことがしばしばあるでしょう。オフィス内で従業員同士のコミュニケーションを日頃から十分に取ることで、業務の円滑化やミスの軽減に繋がります。
また、テレワークや在宅ワークは孤立した空間となる場合が多いため、自覚がないうちに「テレワーク鬱」(テレワークがもたらすメンタル不調)となることがあります。オフィス内で他者とコミュニケーションを取ることで自然とストレス解消へと繋がり、心身が健康な状態で仕事ができます。テレワーク鬱は、一般的な鬱症状と同じく放置してしまうと次第に悪化していく病気です。やる気が起きない、パソコンの前へ座る気が起きないなど、テレワークや在宅ワークを十分に遂行できなくなる可能性があります。結果的に仕事の生産性が落ちてしまうため、従業員と会社の双方にとってデメリットとなります。
これからの時代に求められるオフィスとは?
オフィスワークとテレワークの双方のメリットを活かすためには、企業には今後どのような方策が求められるのでしょうか? Googleは21億ドルをかけてニューヨークに新たなオフィスを取得する計画を2021年9月に発表しました。Googleの最高財務責任者であるRuth Porat 氏はこの発表にあたって「共同作業や関係性構築のために人々が集う場所(オフィス)は私たちの重要な部分として将来も残っていくだろう」と述べています。多くのデジタルコミュニケーションツールを提供し、テレワーク環境の発展に貢献しているGoogleですが、社員が対面でコミュニケーションを取る場所としてのオフィスに投資を惜しまない方針のようです。
国内の事例では、オフィス家具に強みを持つコクヨが手掛ける「WELL-LINK」というオフィス空間コーディネート事業が注目されています。コクヨのWebページでは、ラクスル、ダイキンといった企業のオフィスの例が紹介されていますが、多様な働き方の尊重と人と人のつながりが意識されたオフィスデザインは、単なる作業スペースとは一線を画し、これからの時代に求められるオフィスのあり方の一例を示しています。このように企業のビジョンを具体化したオフィスを整備することによって、業務の効率化のみならず優秀な人材を確保する効果も期待されています。
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フレックスタイム制やハイブリット勤務の導入
大手企業などでは、フレックスタイム制やハイブリット勤務を新しい働き方のひとつとして取り入れている事例があります。
フレックスタイム制とは、出勤時間や退勤時間、1日の勤務時間などを従業員自身で決めて働けるスタイルのことです。1987年に労働基準法が改正され、1988年4月よりフレックスタイム制の導入が開始されました。日本の第三次産業の成長に伴い産業構造が変化したことで女性の社会進出が推進されたり、ワークライフバランスを重視した働き方を求められるようになったことをきっかけとしてフレックスタイム制が導入されることになりました。フレックスタイム制では、家事育児や趣味、資格取得などのプライベート時間と仕事時間を自由に調整できるため、生活と仕事のバランスを取りながら働けるメリットがあります。
しかし、従業員一人一人の勤務時間が異なることによってオフィス内で顔を合わせて話す機会が減少するため、メンバー同士のコミュニケーション不足が発生する可能性があります。フレックスタイム制を導入する場合には、メンバー全員がオフィスに集まる時間帯をつくってルール化したり、オンラインツールを上手く利用してコミュニケーションの場をつくる工夫が必要でしょう。
ハイブリット勤務とは、オフィスへの出勤日とテレワークなどオフィス外で働く出勤日を組み合わせた勤務スタイルのことです。週2日はオフィス出勤、週3日はテレワーク出勤といったように、従業員の生活状況や業務内容の性質によってカスタマイズしながら働くスタイルを指します。「メンバー同士で意見交換しながら遂行すべき業務はオフィス」「育児や介護などの用事で出勤が厳しい場合や一人で集中して作業する空間が欲しい場合にはテレワーク」といった柔軟な働き方が可能となるため、業務効率の向上や従業員の出社ストレス緩和などの効果が期待できます。
しかし、フレックスタイム制と同様にハイブリット勤務でも、オフィスで顔を合わせる機会が減少することによるコミュニケーション不足が発生する可能性があります。メンバー同士のコミュニケーション不足による弊害が起きないよう、ハイブリット勤務を導入する場合には企業側でコミュニケーションの場を設ける工夫をする必要があります。
まとめ
新型コロナウイルス感染症拡大防止という政策目的のためテレワークや在宅ワークの導入が急速に進んだことで、オフィスの存在価値が見直されつつあります。テレワークや在宅ワークを経験することがオフィスでのコミュニケーションの価値や人間関係の重要性を再認識するきっかけとなった例も多いのではないでしょうか。
従業員の都合に合わせて働く時間を調整できるフレックスタイム制や、テレワークや在宅ワークのメリットとオフィス勤務のメリットを良い所取りしたハイブリット勤務を上手に活用しながら、企業・従業員の双方にメリットの大きい勤務スタイルを実現することが理想です。そのためには、オフィスという存在は欠かせません。オフィスは作業スペースの提供にとどまらず、人と人が対面でコミュニケーションをとりながら関係性を構築していくための機能の提供という目的のために必要とされ続けるでしょう。
(参考)
- 厚生労働省「これからのテレワークでの働き方に関する検討会(第1回)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11911500/000677508.pdf - 総務省 「令和3年度情報通信白書」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/r03.html - パーソル総合研究所「第四回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/research/activity/data/telework-survey4.html - FORTUNE 「Google to buy New York City office building for $2.1 billion」
https://fortune.com/2021/09/21/google-to-buy-new-york-city-office-building-for- 2-1-billion/
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